人類が最初に出会った鉄と思われる隕鉄のお話


鉄利用の始まりについては、まだ確かな史料はないものの、隕鉄と還元鉄の2つの
説があります。鉄の存在を知ったのは、隕鉄を手にしたことに始まるといわれてい
ます。


地球上に飛来した隕石、その隕石の中で鉄を多く含む隕石を隕鉄と呼びます。この隕鉄とのい出会いが人類が最初に出会った鉄との出会いとするする説があります。
今から、およそ5000年前、人が最初に発見した「鉄」は宇宙から飛来した「隕鉄」で古代エジプト人は、「鉄」は宇宙から来るものだと考えていたようです。


隕石説の真意はともかく、鉄鉱石から「鉄」をつくるには、高度な技術と高い温度が必要です。
たまたま鉄鉱石が産出する場所で、火事があったり、焚き火をしていたときに、うまい具合に風が吹き込み火に勢いがついて温度が上昇し、鉄鉱石が「鉄」に変化することに人が気づいたのだと思われます。まさに「鉄」は偶然の産物といえるでしょう。


紀元前2,000年以降のアナトリア地方(現トルコ北西部)で起こったヒッタイ
ト人は、先住民族のハッティ人やクシャ人たちの隕鉄や還元鉄を使った鉄器文化を
独占利用し、鉄の力をもって繁栄したといわれています。
その後、紀元前12〜11世紀にヒッタイトが衰えるとともに、鉄利用の文化はヨ
ーロッパやアジアの各地へ伝わり、鉄鉱石などを使った製鉄方法が広く普及し、武
器や農耕具として人間の文明の発展に大きく貢献していきました。


話を隕石に戻します

◎隕石と隕鉄とは

隕鉄は地球に飛来した隕石の中で鉄を含む隕石を指します。
また隕石は次のように分類されております。

@隕石母天体上で溶融・分化を経験していないと考えられるコンドライトと
A隕石母天体上で溶融・分化を経ていると考えられる 非コンドライトに分けられます。

@のコンドライト隕石には炭素質コンドライト、普通コンドライトなどがあります。コンドライトグル−プの隕石の特徴はコンドルールと呼ばれる地球所上の岩石には見られない 0.1mmから数mmの球状の物質を含んでいます。

Aの非コンドライト隕石には石質隕石、石鉄隕石、鉄隕石などがあります。これらの隕石の特徴はコンドル−ルを含まず、様々な熱源 (例えば放射性元素の壊変熱や隕石の衝突熱など) によって、物質は溶解し、結晶化に際して物質の分化が起こったと思われる隕石

Aの非コンドライト隕石に分類される石鉄隕石と鉄隕石には鉄とニッケルが含まれています。これらを隕鉄と呼びます。
石鉄隕石はニッケルを含む金属鉄と珪酸塩鉱物が共存しています。
鉄隕石は主に鉄とニッケルの合金からなっており、この鉱物は地球では発見されていないものです。隕石母天体上での物質分化の結果、鉄・ニッケルが集まったものと考えらます。

1836年にナミビアで発見されたGibeon隕石(鉄隕石)は回収された隕石の総重量は10トンを越え1トン以上の試料を所蔵する博物館もあるそうです。


鉄隕石は、メインとなる鉄・ニッケルの合金と少量の鉱物で構成されています。ほとんどの鉄隕石は、重さで言うと5〜15%のニッケルを含みます。地球上ではこのような鉄・ニッケル合金の鉱物は発見されておりません。超高温から冷却される過程において、内部編成が2つの鉱物による合金へと変化します。それがウッドマンステッテン構造と呼ばれる内部構造で、705℃以上からゆっくりと冷却されると形成され、ほとんどの鉄隕石に見られます。ちなみに、宇宙空間の真空状態では1度温度が下がるのに百万年もかかるそうです。

左写真はGibeon隕石のウッドマンステッテン構造

◎実際に隕鉄を熱して叩いてみました。
硫黄のように臭いがして小さな破片が飛散し鍛造が出来そうにないので作業を中止いたしました。(下記写真2葉は同じ隕鉄です) 

熱して叩いた隕鉄(左写真)

サイズ&重さ(≒50×18×18mm 100g)
表面が焼けただれひびが入っています。叩けば叩く程ひびが入り細かくなった部分が飛散。鍛造は無理なので折り返し、鍛接も出来ません。


表面を削りました

表面をグラインダ−削った後で#2000の仕上げ砥石で研ぐ。見た目には完全な鉄の色・光沢。斜線はヤスリ目でウッドマンステッテン構造の紋様ではないと思われます。
この隕鉄の小片を2名様にプレゼント

◎鍛接出来た隕鉄
安来黄紙3号に隕鉄を鍛接
鍛接に使用したギボン隕鉄 安来黄紙3号の上に隕鉄を載せ火の中に(900度位) 鍛接後叩いて形を修正



鍛接部分を上から(上が隕鉄) 鍛接部分を横から(下が隕鉄) 鍛接部分を横から(上が隕鉄)

◎隕鉄と刃物

*隕鉄から刃物は作れるのでしょうか。

榎本武揚が富山県に落下した隕鉄から榎本武揚が流星刀(日本刀)を作り大正天皇(当時は皇太子)に贈った話は有名です。


@カ−ボンが含まれていないので焼き入れをしても硬くならないので隕鉄だけでは刃物は作れません。

A折り返し鍛接(真っ赤に赤らめ重ねて叩いて接合すること)することがニッケルの量によって左右されます。
 鉄とニツケルは熔ける温度が違うのでニッケルが多くなると折り返し鍛接が難しくなります。


榎本武揚から依頼され流星刀を作った刀匠の報告書には出雲の玉鋼:隕鉄=3:7(鋼部部分)、地金は全部隕鉄と記されていますが多分和鉄を混ぜていると思われます。

明治二十三年(1890)富山県(旧白萩村地内)において発見された白萩隕鉄。当時、農商務大臣の榎本武揚がこれを知り、購入した。その後、刀工の岡吉国宗に依頼、長刀2振、短刀3振、合計5振の刀を製作し、長刀1振を時の皇太子(後の大正天皇)に献上した。長刀1振、短刀1振は行方不明になり、現在長刀1振、短刀2振のみ現存している。これらは流星刀と名づけられている。これはその内の一つの短刀で富山市科学文化センター所蔵
流星刀の写真・記載につきましては富山市科学文化センタ−HPを参考にさせていただきました。流星刀の記載のある富山市科学文化センタ−HPアドレスは次の通りです。
http://www.tsm.toyama.toyama.jp/curators/aroom/bunka/chubu/toyama.htm


三条市 岩崎重義グル−プの作った切り出し
材料は1836年、アフリカのナミビアで発見されたギボン隕鉄。これを折り返し鍛造し母材を作り鋼付けしてあります。隕鉄はカ−ボンが含まれていないので鋼にはなりません。

材料となったキボン隕鉄。
写真は三条新聞13/8/31号より


ギボン隕鉄を地金にして鋼付けした小刀。
写真は三条新聞13/8/31号より


隕鉄は地球上ではありえないニッケルと鉄の合金。そのため落下して長い期間が経過しても他の隕石よりも自然消滅する期間は長いと言えます。
人間には想像のつかない距離と時間を経て地球に飛来した隕鉄。ロマンの一言に尽きるようです。
当店で所有している隕鉄の小片を2名の方にプレゼントいたします。プレゼント出来る時期は準備の都合上4月下旬になると思います